「信仰は政治に従属するのか」-2022年3月18日のレント集会によせて-

冒頭から私の大変お恥ずかしい昔話で恐縮ですが、学生時代には政治学科にて学びました。
今思えば若気の至りなのですが、政治の道を志した時でもありました。例えば、①地元の練馬区の小中学校でPTA会長を務められた方がいて、その方が自民党から区議会議員選挙に立候補するというので、そちらで選挙運動のアルバイトをしました。②数々の政治家を輩出している“雄弁会”という弁論サークルがありそこを覗いてみたものの、内部が「学生運動派」「政治哲学派」「国会議員のカバン持ち派」に分かれ、かなり荒れていて、例年GWに行われる最初の合宿前に入部を断念しました。③挙句の果てには就職活動の際、クリスチャンだった伯父たちのうち3人が通信社や新聞社の政治記者だったので面接のご指南を頂いたり、“山崎塾”というマスコミ塾に通ったりしました。1984年に「世田谷ケーブル火災」という事故があり、その山崎塾では課題として住民への取材が与えられました。結局そこで挫折してしまいました。④ゼミでは憲法の「基本的人権」をテーマにしました。ゼミには同期の仲間が20名おり、そこから2人の現職の参議院議員が出ています。そのうちの一人は世耕弘成くんで、次期総理大臣を目指すために衆議院に鞍替えするだとか最近のニュースで見、今後の彼の活躍を祈っているところです。
では、そもそも何故政治を志す様になったのかですが、大学1年生の時のとある教授の一般教養の政治学の授業の中で「全ての学問・芸術は政治に従属する」という、おそらくマルクスかエンゲルスの著書の中の言葉でしょうか。つまりこの世で政治が最上位にあり、宗教を含め全てが政治の支配下にある、と聞いて以来、クリスチャンホームに生を受けたにもかかわらず、その影響を大きく受けました。

洗礼を受けて何が変わったか、と錦織先生にも問われたことがありますが、最近になって「宗教は政治に従属しない、すなわちあらゆる信仰は政治を超える」と感じる出来事が増えてきました。

私の友人の一人に、高校でのクラスメート、その高校は3年間クラス替えがありませんでした。エスカレーターで上がった大学でも同じ学部学科、しかも同じグリークラブに4年間所属していたものがおります。彼は40代中盤になってから生命保険会社を脱サラして日本正教会の神父へと献身しました。ニューヨークめぐみ教会の笹川牧師の東方教会バージョンとでも申しましょうか。現在は熊本県の人吉ハリストス正教会にて務められておられます。

特に私が洗礼を受けてからというもの、彼の教会のFacebookやブログをよく読むようになりました。先月に印象に残る3つの記事があり、引用しつつレント集会での証としてお話しさせて頂きます。

まず2月11日のことですが、「イスラームと正教会」という題で彼のZoom講演会があり聴講しました。

アメリカでも9.11以降、なにかにつけイスラム教徒とキリスト教徒とは対立軸で話されがちですが、実際その後の報復合戦の様相を呈している戦争やテロの報道に接するにつけ、宗教間の憎しみの連鎖が続いているように思います。彼の講演会ではまずイスラームの教えや価値観を客観的に説明し、キリスト教、彼の場合は正教会になりますが、キリスト教との考え方の相違点を説明するものでした。例えばコーランの文中、預言者たちの中の一人にイエス様も含まれているなど、初めて知ることも多く、とりわけ印象に残ったのが彼のまとめの部分でした。それは「異なる信仰、異なる価値観といったアイデンティティの相違を理由にした社会の分断こそが今世紀の世界共通の問題であること。その最大の原因は異なるものに対する無知、無理解である。従って宣教者である彼がイスラームについて学び、正しい情報を教会内に伝え、キリスト者が異教徒の兄弟姉妹に偏見を持ち差別することは誤りだと伝えたい」ということです。

そして講演会ではヨハネ13章34節を引用されたので読みます。「わたしは、新しいいましめをあなたがたに与える、互に愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互に愛し合いなさい。」とあるようにキリスト者は相手がだれであれ他者に隣人愛をもって接することが求められると結ばれました。

私自身、西方教会と東方教会とが聖書を共有している同じキリスト教徒であることすらよく理解していなかったのですが、この講演を通してイスラームのみならず日本正教会についても知ることが出来たのが収穫でした。講演会の最後にトピックとして、9.11以前にはWTCの真下にギリシャ正教会聖ニコラス堂があったそうです。9.11でWTCの下敷きになって倒壊したのですが、現在、ギリシャ正教会聖ニコラス国民礼拝堂という新しい名前で再建中との言及があり、是非、機会を見つけて訪ねてみたいと思うようになりました。

次に2月23日、日本では天皇誕生日の祝日でした。

この日にちなんでの話でしたが、日本正教会の祈祷文の中では必ず「我が国の天皇陛下及び国を司る者のために祈る」という文言が入っているそうです。彼自身はカトリックからの改宗者でしたが、当初は天皇陛下という具体的な文言に大変驚いたそうです。私たちに置き換えるとバイデン大統領やニュージャージーのマーフィー州知事を名指しで祈るような感覚でしょうか。

正教会ではどこでもその教会が立地する国の元首の為に祈り、天皇誕生日には天皇陛下の繁栄を祈るとともに日本国を司っている人々が正しい政を行うように、そして世界の紛争と人権侵害に苦しむ人々が救われる様に祈っているそうです。またロシア正教会の在日本代表も天皇陛下の為に祈るそうです。

現在、ロシアとウクライナの間では正教会に属するもの同士の戦争となっており、其々の教会は大変苦しい立場にあるのではないかと想像されます。そんな状況でも正教会はその国の元首のために祈るそうです。その根拠となっている、使徒パウロがテモテに宛てた第一の手紙2章1節を読みます。「そこで、まず第一に勧める。すべての人のために、王たちと上に立っているすべての人々のために、願いと、祈と、とりなしと、感謝とをささげなさい。 それはわたしたちが、安らかで静かな一生を、真に信心深くまた謹厳に過ごすためである。」 私たちの教会でも3月の祈祷課題の第39番に、バイデン大統領やマーフィー州知事の名前こそありませんけれども「政権のリーダーのために祈る」とありますように、日々ウクライナからの報道映像を見るたびに為政者への祈りの重要性に気づかされました。

然しながら、とても残念なニュースもあります。先週の日曜日、ロシア正教会のトップであるキリル総主教の説教があり、そこで彼は「ウクライナ戦争の原因はプライドパレード、つまり性的少数者の多様性を拒否するかどうかの闘争」と発言しました。当初はフェイクニュースではないかと思いました。しかしながら、大学でロシア語を教えている日本人が実際に説教を聞いたところでも、耳を疑うような発言だったとのことです。歴史を振り返るとロシア正教会はソ連時代に共産主義の名の元で弾圧を受け、その後プーチン大統領によって復興を果たした経緯があります。その観点から恩義があるのは理解できますが、まさに「全ての学問・芸術は政治に従属する」と聞いた授業を思い起こさずにはいられません。自らが信ずるもののトップが戦争を肯定するというのは多くの信者にとって受け入れがたいことだと思いたいです。戦火に苦しむウクライナの人々はもとより、戦争に心を痛めているロシアの人々にも祈りを捧げたいと思います。

最後になりますが、2月24日にロシアがウクライナへ侵攻を開始した事を受けてなのか、残念ながら日本でもヘイトクライムが発生していることがニュースで取り上げられていました。東京の銀座に「赤の広場」という名前のロシア料理の食材店があるそうです。その「赤の広場」と書いてある看板が何者かによって破壊されたとのことでした。しかも経営者はウクライナ人の方なのに、です。因みにですが世界遺産にもなっている「赤の広場」は決して共産主義・社会主義の旗の色のことではなく、ロシア語で「赤い」とは「美しい」の意味があり、「赤の広場」とは本来「美しい広場」という意味だそうです。この出来事で、「プーチンは悪、ロシアは悪、だからロシア人を攻撃する」みたいな誤った正義感が戦争の被害者を広げているように感じます。ヘイトクライムが戦争に加担してしまっているとも言えましょう。今私たちが直面している状況に敢えて例えますと、マンハッタンの地下鉄などで惹起しておりますアジア系住民に対するヘイトクライムがあります。これが発生する理由も同じようなロジックなのだと思われます。
今週の水曜日、ウクライナのゼレンスキー大統領が米国議会でリモート演説を行いました。ロシアの攻撃を非難する例えに911とパールハーバーを並列していたことに私は大きく失望しました。これは日本人やアジア系住民に対するヘイトクライムに繋がる、政治家としての資質に疑問符が付きかねない発言でした。彼が今後ウクライナ国民のために正しく政を行うように祈りたい気持ちです。このような状況下でもキリスト者として国籍とか民族とか無関係に祈りをささげたいと思い、最後に、イエス・キリストが逮捕される直前に追手に対して剣を向けたペトロに対して言ったみ言葉、マタイ26章の52節から54節を読みます。「そこで、イエスは彼に言われた、「あなたの剣をもとの所におさめなさい。剣をとる者はみな、剣で滅びる。 それとも、わたしが父に願って、天の使たちを十二軍団以上も、今つかわしていただくことができないと、あなたは思うのか。 しかし、それでは、こうならねばならないと書いてある聖書の言葉は、どうして成就されようか」。

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