「主の柱が動く時」

昨年の7月1日、2年間在籍していたマンハッタンにある神学校の大学院からメールがありました。

「来月末(8月末)で学校がなくなります。」

突然、なんの前触れもなく知らされたニュースに初めは頭が追いつかず、ただ、「神さまはまた何か企んでおられるな…」という予感だけがありました。学校閉鎖のアナウンスから学校が実際閉鎖されるまで2ヶ月もないというありえない状況の中で、悠長に悩んだり決断したりする間も許されない中で、ただ神さまの声のする方に向かって進むというシンプルだけれども究極の信仰の試練に突然飛び込むことになりました。

そのうち、学校からこれまで取得した単位を移行できる全米の提携神学校のリストが届きました。ただ、私の在籍していたプログラムは神学修士ではなくカウンセリング修士だったので、他の神学生たちに比べて神学校でカウンセリングの修士が取れる提携校は限られ、結局マサチューセッツかケンタッキーにある神学校の2択だけでした。通常、大学院受験は教授や(神学校であれば)牧師からの推薦状を数枚、学校側から出されるテーマに沿ったエッセイ、あらゆる出願手続き、そして面接などの過程を何ヶ月もかけて行います。それを数週間もない期間で全部済ませなければならないなんて…と気を失いそうになりました。もう全部諦めて日本にすっ飛んで帰りたい気持ちもありました。それでも、これだけ激しい大嵐のチャレンジに私を招いた神さまだから、何か私には想像も出来ないような計画をお持ちに違いない、と感じました。また、心配した知人から電話がかかってきて、「ガリラヤ湖で弟子たちと大嵐に会った時、キリストは枕して休んでおられたから、神さまは大嵐の只中にあっても日和ちゃんにきちんと休息も与えてくださるから、大丈夫。」と祈りと共に励ましてくれました。「この嵐をあなたと共に通ります、でも通るからには神さま私を養って、祝福してください!」と祈りました。

そこから大急ぎで2択に絞られた神学校の両方にコンタクトを取り始めました。するとすぐにケンタッキーの方の提携校、アズベリー神学校から連絡が帰って来ました。この私の置かれた異例の事態に理解を持ってくださり、急ピッチで出願手続きをサポートしてくれました。このアズベリー神学校はケンタッキーの小さな田舎町にある神学校で、ジョン・ウェスレー(18世紀の神学者)の教えを土台とした福音派、ウェスレー・ホーリネスの流れを汲んだ神学校です。正直私には昨年まで全くと言って良いほど面識のない神学校でした。昨年の2月、この神学校の併設大学であるアズベリー大学でリバイバル(現地の人たちはへり下りの意味を込めてOutpouringと呼んでいます)という聖霊が力強く働いて信仰が大規模に覚醒するという出来事があり、そのニュースを私もSNSを通して見てとても励まされました。それ以降いつか訪ねてみたいと思っていた矢先に出願してみるということになり、自分でも驚いていました。

アズベリー神学校との出願・受験手続きは驚くほどスムーズに進みました。私のミニストリーでのメンターたちも超多忙なスケジュールの合間をぬって推薦状を速やかに送ってくださり、教会の青年も仕事のあと明け方近くまでかけて私のエッセイの英語を添削してくれ、また多くの方の背後の祈りに支えられて、出願から面接・合格通知まで10日足らずで終わってしまいました。こうして、今御霊が力強く働いているアズベリー神学校への道が急に開かれました。

ただ、留学生ビザの制限があり、住んでいたNYCからオンラインでケンタッキー州の神学校であるアズベリーの授業を受講することは許されず、私はどうしても残りの1ヶ月も満たない短期間で留学生用の在留書類発行など含めた一通りの入学・転校手続きをし、そして8月後半から始まる新学期までにケンタッキーのキャンパスに引っ越しも完了しなければいけないという、とても無理難題なスケジュールに思えました。もし秋学期が始まる9月までにキャンパスへ行くことができなければ、諦めて日本に帰国し、一からまた留学の準備を始めなければならないという大きなプレッシャーもありました。しかもこの時点では学費や寮費を払える見込みも立っておらず、何もかもが未知でした。

一方、マサチューセッツの神学校はNYからも比較的近くまたアクセスもいいので、大好きなNJの教会やNYCのミニストリーチームにも頻繁に戻って来られそうで、転校するとすればこちらの学校の方が理にかなってるように思えました。しかし、なぜかこちらの学校からは最初に問い合わせのメールを送って以降音沙汰が一切なく、返事を待っているうちにあれよあれよという間にアズベリー神学校への合格が決まってしまいました。アズベリーからの合格通知が届いたくらいのタイミングでようやくマサチューセッツの神学校からもメールがありましたが、それによると、私に何回もメールを送ってコンタクトを取ろうとしていたけれども全然私に連絡がつかなかったとのこと。私も何回もスパムメールなども入念に確認してメールを何回か送りましたが返信メールは見当たらず、本当に謎でした。でも、この時点ですでにそちらの学校は最終の面接期間を終えてしまっていました。私の状況の緊急性を加味して、特別に私のためだけに面接の機会を作ってあげるよとオファーもしてくださいました。しかし、その時なぜ神さまはアズベリーとのやりとりを驚くほど早くスムーズに進めて、もう一つの学校との連絡を止めておられたのだろうと思い巡らしました。論理的に考えたら、こんなギリギリのタイミングでこれまで7年過ごしたコミュニティ近くの神学校ではない遠いケンタッキーの地に、誰も何も知らない場所に行くことは無謀で筋が通っていないようにも感じました。ですが、その時私の中に浮かんだのは、出エジプトのこの場面でした。

主は、昼は、途上の彼らを導くため雲の柱の中に、また夜は、彼らを照らすため火の柱の中にいて、彼らの前を進まれた。彼らが昼も夜も進んで行くためであった。” 出エジプト記 13章21節

イスラエルの子らは、旅路にある間、いつも雲が幕屋から上ったときに旅立った。雲が上らないと、上る日まで旅立たなかった。” 出エジプト記 40章36~37節

イスラエルの民たちは、雲と火の柱が動けば動き、止まればその場に留まり、そうして40年間荒野を旅し続けました。その柱がいつ動くのか、民たちは知りませんでした。もしかしたら、夕食の準備をしかけていたのに柱が動いたから急に荷造りをして移動しなければいけない、なんてこともあったかもしれません。神さまのタイミングは、必ずしも私たちが思うベストタイミングであるわけではなく、また私たちが準備できているかどうかに限らず神さまが進む時は私たちも進む。そして何より、神さまがその荒野の旅路にいつも寄り添い、私たちの必要をマナによって常に満たし、行くべきところへ導いてくださる。そのようなイスラエルの民たちの荒野での日々を思った時、今私の目の前の柱も動いて、それはケンタッキーの地へ向かっているのだと感じました。大好きなNJの教会の主にある家族のみなさん、重荷を持って全力投球してきたNYCでの日本人伝道、そして素晴らしいミニストリーチームやメンター、そんなみなさんとの突然の別れとミニストリーを手放すことがとても辛く、ケンタッキー行きを決断してから2日間ほどは泣き腫らしましたが、2日間たくさん泣いてからは心を決めいろんなものを手放して神さまの養いの手だけを握って、7年過ごしたNYの地を去るための準備を始めました。

ケンタッキー行きを決めてから実際に引っ越すまでの1ヶ月弱の期間は怒涛の日々でした。お世話になった多くの方々やミニストリーで出会った学生さんたちとお別れの挨拶をして、引っ越しの準備をして、教会のキッズキャンプを手伝って、転校に必要な書類を集めたり提出したりして、送り出しの祈りを浴び、とても濃厚な時間でした。そうして8月末、5つのダンボール箱と3つのスーツケースでケンタッキー州レキシントン郊外のウィルモアという小さな町に引っ越しました。レキシントンの空港についた時、アズベリーからお迎えのボランティアがあり、博士課程にいるインドからの留学生でヘプセバさんという方が私を空港で出迎えてくれました。このヘプセバ(Hephzibah)はイザヤ書62章4節に出てくるヘブライ語で、「わたし(神)の喜びは彼女(この文脈では女性名詞化された神の民、イスラエル)にある」という意味です。実は私がNYCで最後に長期レジデントとして住んでいたクリスチャンゲストハウスの名前もHephzibah Houseで、NYのヘプセバからKYのヘプセバへ託されたような不思議な出会いでした。そのヘブライ語の意味のように、神さまがこのユニークな方法で「わたしはあなたを喜んでいるよ」と愛を伝え、ケンタッキーに歓迎してくれているように感じました。

あなたはもう、「見捨てられた」と言われず、あなたの土地は「荒れ果てている」とは言われない。かえって、あなたは「わたしの喜びは彼女にある」と呼ばれ、あなたの国は「夫のある国」と呼ばれる。それは、主の喜びがあなたにあり、あなたの国が夫を得るからである。” イザヤ書 62章4節 

Hephzebah Houseで過ごしたNYC最後の2ヶ月間、大嵐のような日々を送る中で神様は何度も私に「あなたはわたしの喜びの花嫁、あなたはわたしの愛する娘」ということを伝えてくださいました。Hephzibah Houseの壁にこのイザヤの言葉が書かれていて、毎日それを見る度に試練の中で神様の愛が拠り所となり、次の人生の通過地点へ行くための備えの期間となったと今振り返ります。こうして7年間のNYでの生活を終え、KYでの新たな歩みが始まりました。

(9月号に続く)

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