今月は昨年の東日本大震災で大きな被害を受けた宮古市を中心に支援活動をされている岩塚牧師にメッセージをお願いしました。岩塚牧師ご夫妻は、今年の6月にNJを訪問され、被災地の様子をご報告下さいました。
「被災地の中心で神のシャロームを叫ぶ!」
宮古コミュニティーチャーチ牧師 岩塚和男
その名は「不思議な助言者、力ある神、永遠の父、平和の君」と呼ばれる。
He will be called, “Wonderful Counselor,” “Mighty God,” “Eternal Father,” “Prince of Peace.”イザヤ9:6
感謝と祈り
2011年3月11日の東日本大震災から1年8カ月になりましたが、これまで様々な形でご支援下さり、お祈り下さった方々に心から感謝します。
また、先日ニューヨーク、ニュージャージーを襲ったハリケーン「サンデー」で被害を受けられた方々にお見舞い申し上げます。
最も被害が大きかったのは
「東日本大震災で最も被害が大きかったのはどこですか?」
震災後に持たれた復興支援コンサートで司会をさせていただいた時に、このような質問をさせていただきました。
「大槌町」「(宮古市)田老」「……」などの地名があげられましたが、私が被災各地を回り、多くの被災者のお話しをお聞きした経験から「最も被害が大きかったのは私たちの心ではないでしょうか」というと皆さんが同意され、涙を流されていた方もいました。
なかなか癒えない心のダメージ
ガレキが取り去られ、商店が再開し、外見的には復興が進んでいるように見えても、1年後のアンケートでは、85%の方たちが「まったく進んでいない」「ほとんど進んでいない」と答えています。1年8カ月になってもその数字はあまり変わらないように思えます。被災して心に受けたダメージの回復が遅れているのが現状です。
先日、ロサンゼルスで開かれた国際トラウマティック・ストレス学会で日本の精神科医により「福島の子供たちの21.5%が危険な心の状態にあり、大人は21.3パーセントが心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥っている」と報告されました。実に、5人に1人の方が精神的な問題を抱えているのが現状です。
悲しみに寄り添う働き
昨年のお盆の前(震災から4ヶ月後)にある仮設住宅を訪ねたら、一人の男性が無表情で玄関にお盆の準備をしておられました。震災から1年8カ月を迎えようとしている11月に再びその方とお会いすることができ、玄関先でお話しをしました。しばらくすると、奥さまが目の前で津波にさらわれ亡くなられたことをお話し下さり、その深い悲しみで嗚咽しながら泣き出されました。私も一緒に泣きました。少し落ち着かれると、同じく奥さまを亡くされた友人を連れて、教会主催の仮設カフェに来られ、支援に来られていた牧師にこれまで一人で抱えてきた思いを打ち明けられました。そして「震災後初めてこのような機会を持つことができた。ありがとうございます。」とおっしゃって帰られました。この方は、1年8カ月もの間、悲しみを吐き出すことができずにいたのです。
震災で友人を亡くされた仮設住宅で一人で暮らされているご婦人は、自分だけが助かったことに罪悪感を覚えるようになり、また一人暮らしの孤独感で、時が過ぎるにつれて「海に飛び込もうか」「包丁でお腹を突き刺そうか」「……」と自ら命を絶つことばかり考えるようになったそうです。クリスチャンのボランティアが集中的に訪問することにより、今は、「もう死のうなんて言わない」「神様がいるってわかった」とおっしゃっています。
こうした、心が張り裂けそうな悲しみにある方がた、生きる希望が持てずに家にこもっている方がた、アルコール依存症の方がた、死にたいという思いに苛まれている方がた、……が今も大勢おられるのです。
そして、それは決して被災地に限った事ではないのです。
日本では、自殺者が年間およそ3万人、孤独死(孤立死)が東京23区だけで年間およそ3千人。大切な命が悲しみと孤独の中で失われているのです。
あなたの隣人が叫びをあげているのです。
悲しんでいる人々に寄り添う人が必要です。
「不思議な助言者、力ある神、永遠の父、平和の君」
東日本大震災から二度目のクリスマスを迎えようとしていますが、
“その名は「不思議な助言者、力ある神、永遠の父、平和の君」(イザヤ9:6)” と呼ばれる救い主イエス様が一人一人の被災者の心に、そして世界中の救いを求めている方々に訪れるように切に願わされます。
1.「素晴らしいカウンセラー」”Wonderful Counselor,”
「不思議な助言者」は、尾山令仁訳では「素晴らしいカウンセラー」と訳されています。ほとんどの英語訳も同様に訳されているようです。多くの方が気休めや如何わしい助言者ではなく、まことのカウンセラーを求めています。どのような悩み、悲しみ、苦しみにある方にも、イエス・キリストこそその思いのすべてを受け止め、寄り添い共に歩んで下さり、解決を与えて下さるお方です。
2.力ある神
震災後に多くの方がたが感じられて、言われたことは、それまで信じ、仕えてきた偶像の神々が「力ない神」で何の助けも得られなかったことです。教えを説き、御勤めやお布施を求めるが、具体的に助けることはできない神々。まさに“彼らの偶像は獣と家畜に載せられ、あなたがたの運ぶものは荷物となり、疲れた獣の重荷となる。彼らは共にかがみ、ひざまずく。彼らは重荷を解くこともできず、彼ら自身もとりことなって行く。(イザヤ46:1~2)”であったことを身を持って体験したようです。
しかし、震災後に、多くのクリスチャンボランティアに接した方がたが、クリスチャンの信じている神のことを知りたいと言われるのを聞きました。クリスチャンの愛の奉仕や証しを通して、その信じている神の偉大さ、力強さを覚えたようです。「あなたたちの信じている神様は強い神だ!」と言われた方もおられました。
3.永遠の父
“わたしは、あなたがたを捨てて孤児にはしません。(ヨハネ14:18)”とあるように、イエス・キリストは、私たちの父であり、愛する子供たち一人一人をみなしごにしない神である。
また、心の行き場のない人々が増えている現代社会で、父の家は私たちの帰るべき魂の故郷でもあります。
震災やさまざまな苦しみによって一人ぼっちになり、みなしごのような状態にある方々にとって永遠の父となって下さる救い主の愛が、私たちの奉仕を通して伝えられるように!
4.平和の君
先日、ある集会で「伝道は自分たちの教団、教派の拡大とそのための信徒獲得のみを目指すのではなく、この世界に神のシャロームを樹立することを目標とすべきだ」と話させていただいた。“シャローム”は単に、争いのない、「平和」な状態を表わすだけでなく、力と生命に溢れた動的な状態をいい、「健康」「平安」「健全さ」「安全」「欠けることのない十全性」という意味も含まれる豊かなことばです。
キリストはその十字架により、神と人とのシャローム、また人と人とのシャロームを成し遂げて下さった。その福音をことばだけでなく、私たちの存在のすべてを通して伝えられればと強く願わされる。
仮設住宅での生活が長引くほどその生活の過酷さを訴えられる方が増えている。経済の問題、健康の問題などもさることながら人間関係の問題が深刻になっている。ストレスも溜まりDVも急激に増えているようである。
人間関係の難しくなっている仮設住宅の自治会長さんから「教会のボランティアはそういう(和解の働き)のが得意のようだから手を貸してほしい」と相談されたことがあります。私たちには、神から“和解の務め”がゆだねられているのだと再確認させられました。
それは神が求めておられることですが、世の人々も求めていることなのです。
今こそ「平和の君」であるキリストのシャロームが必要です。
月報2012年11月号より